「フォンダンショコラに夢中だったしな」
「あ、それが大きいです」


ふふっと笑う。おいしいものは、嫌なことも痛みも忘れる一番の薬だ。


「一応見せてみて」


隼に言われ、素直に左手を出す。
隼がすぐに冷やしてくれたおかげだろう。赤味もずいぶん引いている。


「もう大丈夫です」


そう言って見上げると隼と目が合い、視線が絡まる。逸らそうとするのに真っ直ぐな眼差しと交差して叶わない。
いつもと違う空気が舞い降りる気配がして、急速に胸が高鳴っていく。昨夜のキスの意味もわからないのに、心が隼を求めはじめて想いが止まらなくなる。

でも、これ以上は危険。隼が優莉を女性として見ていないのは事実だから傷つくだけ。大人の隼にしてみたら、キスくらいなんともないのだろう。子どもの優莉には理解不能な挨拶みたいなもの。


「片づけをしてきますね」