それほどの威力を持つ歌声だった。

あの日の感動を私は絶対に忘れない。

「咲は将来歌手になるの? あ、バンドマンの方か。ギターもできるもんね」

「いや、無理だろ。趣味程度だよ。昔は夢を見なかったこともないけどな」

「なれるよ。そのときは絶対に教えてね!」

よっぽど必死なように見えたのか咲は小さく噴き出した。そして私の後頭部に手を伸ばして軽く触れる。

その瞬間、なぜだかドキッとした。

『咲は俺に神楽さんを取られたくなかったんだよ』

今になって黒田くんの言葉が蘇って顔が熱くなった。まともに目を見れないよ。

「バーカ」

そう言ってはにかむ咲。

手の力が強くて、女子の私とは大きさも全然ちがう。

そんな当たり前のことを今になって認識すると、咲の顔が見れなくなるほど恥ずかしさがこみ上げてきた。

しばし沈黙が流れる。だけどこれだけは伝えたい。

「ねぇ、咲」

「なんだよ」

「ありがとう。私、咲に出会えてよかった」

「なんだよ、いきなり」

「ふふ」

「やっぱ変なヤツだな」

「あはは」

いつまでもずっと、このままでいられたらいいのに。