「えっと確かね、トイレの中に入って、手を合わせて祈るんだって。マリア様、マリア様、どうか願いを聞いて下さいって」

「へえ、そうなんだ。あたしも痩せたいですってお願いしに行こうかなぁ」

キャハハ、という笑い声がして、どんどん声が遠くなっていく。

今の話を聞いた環奈はいてもたってもいられなかった。

にわかには信じがたい話だったが、雅彦のためならなんだってしてみせる。

環奈はそう強く決意すると、涙をふいて、走り出した。

環奈が走っていく姿をふたつの影は、廊下の壁からしっかりと見ていた。

ふたつの影がくっつきあい、ひとつの小さな小さな影になる。

赤ん坊の形をしたその影は、『キシシ』という笑い声を残して、壁に溶けるようにして消えていった……。