一ノ瀬くんのするどい視線に、
山田がかたまっている。


「ご、ごめんっ、一ノ瀬くん!

はいっ! 
山田にはこれあげるねっ。

朝歌たちにも渡してきて!」


かばんに入っていたアメを
どさっと山田に渡した。


山田が朝歌たちに
アメを配っているのを見ながら、
呼吸を整える。


一ノ瀬くんにつかまれた手のひらが、
ものすごく、熱い。


び、びっくりした!

落ち着け自分!


ドキドキしながら、
一ノ瀬くんにもうひとつ、
いちごみるくキャンディーを渡す。


「一ノ瀬くん、
いちごみるくキャンディー
大好きなんだね!」


動揺して震える指先をごまかすように、

私も一粒、
ぱくりと口にふくむと、

ざらりとした甘みに
少しだけ緊張がほどける。


「ん! 美味しい! 私も一番好き!」


すると、
小さく頬を緩めた一ノ瀬くんが
プイっと窓のそとを向いてしまった。


あれ?

一ノ瀬くん、
耳まで赤くなってるような?


気のせいかな?


しばらくすると、
口の中でアメがとけ始めて、
強い甘みが広がる。


窓からはそよそよと心地のいい風。


ふぁああ。


大きくあくびをして
時計を見ると、

授業が始まるまで、
まだ5分ある。


なんだか
心臓はまだドキドキしてるし、
顔は熱いし!


ちょっとだけ眠って、
気持ち、落ち着かせよう。


うとうとと心地のいい眠りに
意識を委ねる寸前に、
耳もとで響く低い声。


「天野、ほかの男としゃべんないで」


……夢のなかでなにかが、
聞こえた気がした。