「やっぱり、藍里自身の匂いか」

「ひあっ!?」

首筋にさらっとした髪が当たり、思わず変な声が出てしまうと、智大はニヤリと口角を上げた。

「なるほど、首が弱いのか」

「や……っ……そこで話さない、で……っ」

わざと首筋に息が当たるように話され、藍里は擽ったさに身を捩り逃げようとするが、しっかり抱きしめられている今、どこにも逃げ場はなかった。

「擽った……も、やめて……」

「まだやめない」

「話して……臭うって……もっかいお風呂入るから……」

「臭うんじゃなくて、匂うだ」

微妙なニュアンスに藍里は逃げ出す動きを止めて智大を見ると、智大は今まで見たことがないような穏やかな表情をしていてドキッとした。

「藍里自身の匂いだ。落ち着く匂い」

「っ……!!」

智大の言葉に何も言えず、藍里はその視線から隠れるように背中を丸めて智大の胸に顔を埋めた。
途端に匂ってくる智大の匂いにキュンとするやらドキドキするやらで、疲れ果ててその場で完全に寝ついてしまうまでの約一時間の間、藍里の心臓は忙しく動いていたのだった。