ポカポカと温かい
中庭のベンチで
お弁当を広げていると

叶奈ちゃんが
キョロキョロと周りを確認して、
声を潜めた。


「ねぇねぇ、
羽衣ちゃんは一ノ瀬くんのこと、
怖くないの?」


叶奈ちゃんの言葉にびっくり。


「一ノ瀬くん、
いつも眠そうにしてるけど、
怖いひとじゃないよ?

叶奈ちゃんは一ノ瀬くんのこと、 
怖いの?」


驚いてたずねると
コクコクとうなづきながら、

叶奈ちゃんが続ける。


「ほら、一ノ瀬くんって、
ものすごくかっこいいけど
必要最低限しか話さないし

話しかけても、
ほとんど返事してくれないでしょ。

たまに返事してくれたとしても、
『ん』とか『あ』とか。

一言っていうより、
もはや一文字だし」


「あはっ! 確かにそうかも」


「でも、羽衣と話してるときは
少し違うよね」


小声で会話に加わった
朝歌をキョトンと見つめる。


「さっきから、
どうして朝歌も叶奈ちゃんも、
ひそひそ声で話してるの?」


ふたりに合わせて声を潜めると、


売店で買ったパンを
モグモグさせながら

叶奈ちゃんが眉を寄せた。


「だって
一ノ瀬くんの悪口とか言ったら、

バスケ部応援団のみなさんから
何をされるかわからないから」


「えげつないお仕置きとか
されそうで、怖いよね」



「えげつ…、ええっ? 
そうなの?」


あのぼんやりしている一ノ瀬くんに、
そんな恐ろしいファンのコがいるなんて

なんだか想像できない。


「一ノ瀬くんを追って
この学校に入学した
熱烈な追っかけの子たちが、

結構きわどいこと、してるらしいよ」


「きわどいことって?」


じっと朝歌をのぞきこむ。