「すみません、リードが外れてしまって!すぐに退かしますので」

レトリーバーの横につきカチャッとリードをつけた男性は、ふぅ。と安堵の息を吐いていた。
怯えた藍里と視線が合うと男性は、しまった。という表情をしてから、慌ててレトリーバーを藍里の上から退かした。

「す、すみません!大丈夫ですか!?」

「っ……!」

レトリーバーを退かした男性はその場で膝をついて助け起こそうと手を伸ばしてくれるが、藍里は初めて会う男性のその仕草に恐怖を感じ、動揺を隠せず小刻みに震え、涙目になってしまった。

「か……可愛い……」

怯えた藍里を見て男性は頬をどんどん紅潮させていき、目はキラキラと輝きだした。
伸ばしていた手で藍里の手を掴むと、藍里が声にならない悲鳴を上げたのにも気付かず、その手を宝物のように両手で包み込み、あろうことか顔を近づけてきた。

「やっと会えた……俺の運命の人。是非、俺と付き合ってください」

愛しそうな表情を浮かべた男性は、すりっと藍里の手に許可なく頬擦りした。
ゾクッと悪寒が走り、藍里は首を横に振って後退ろうとするが、手をしっかりと掴まれていてそれは叶わなかった。
その動作と最近よく来る白い封筒の中に書かれた言葉と男性の言葉が重なり、藍里はパニックに陥る。

「や……私……」

結婚してる……。と言おうとしたが、ガタガタと体が震えていて、思い通りに口も動いてくれなかった。

「ブレイブのリードが急に外れたのは俺と貴女が出会うためだったんだ……。さあ、俺の可愛い天使、返事を……」

うっとりとした表情のまま、今度はその男性が藍里の震える手に口付けた。
その感触に恐怖のメーターが振り切れてしまった藍里は目の前が暗くなり、やがて意識を失った。