〈智大side〉

「ま、入江が永瀬の嫁さんに対してそこまでの感情を抱いていないことに安心した。いくら特殊班には屈強な精神を持った者が多いとしても、恋愛感情の縺れから己を見失い、事件に発展していった事案は数えきれないほどある。
そんなドロドロした事件を起こしてほしくないからな」

「先輩の奥さんは正直めちゃくちゃ理想ですけど、俺は絶対そんな事にはならないと誓います。
あ……でも、あいつなら分からないですね」

「あいつ?」

相手がいる女性に手を出して、事件に発展させるような奴がいるのかと室山と一緒に智大は入江に目を向けると、入江は少し言いづらそうに頬を人差し指で掻いていた。

「僕と同期でこの辺の地域警察部門に所属してる吉嶺(よしみね)って言う奴がいるんですけど……先輩の奥さん、あいつの好みに完全に当てはまってるんですよ。
昔、何度か人の女に手を出したって揉めてるのを見たことあります」

「その吉嶺って奴はそんなにたちが悪いのか?」

「たちが悪いって言うか、盲目的で面倒臭い奴ですね。根は良い奴なんですけど」

そう言ってジョッキに入ったビールを飲み干し、おかわりいいですか?と聞いてくる入江に然り気無くノンアルコールビールを手渡しながら智大は、地域警察の吉嶺と言う名前を覚えておくことにした。