家に帰ると、機嫌の悪い母に迎えられた。


「家帰ったら真緒が部屋散らかしてるじゃない。バイトない日は早く帰ってきてよね」

「ごめんなさい」


忙しそうに夕飯の支度をする母に謝ってから、真緒と一緒に片づけをして、宿題をやらせた。


「そうだ、真緒がサッカーチーム入りたいって言ってて。バイトの給料入ったら協力してくれない?」


一人で私たちを育ててくれている母に余計な苦労をかけたくない。

そう頑張ってはいるものの、なかなか上手くいかなくて申し訳ない気持ちになる。

だからか、母の言葉にはいつも「うん、わかった」と反射的に返事をしてしまう。

反対しても私の意見が通ることはほとんど無いし。


もう慣れていることだ。


「真緒、今度お母さんと一緒にサッカーチームの見学行こうか」


ここは薄い壁の古いマンション。

「やったー!」と近所迷惑になりそうなほど喜ぶ真緒に「しーっ、静かに」と注意した。


「美透には本当苦労かけるけど、一緒に頑張ろうね」


母にそう言われ、軽く笑顔で応えた。


携帯は動画をたくさん見れるプランに変更したい。

チケットを取って好きなバンドのライブに行ってみたい。


高校は公立だけど教科書代、制服代、学費、修学旅行の積立金等、もろもろお金はかかる。

ワガママは言ってはいけない。

真緒はまだ小さいし、私が我慢すればいい話だ。


『新しい曲増えましたね』


寝る前、クノさんにDMを送ってみた。

返事はなかったけれど、もう一つメッセージを送っておいた。


――ただ今日も曲が吐き出されていくだけ


『あなたの吐き出している"音楽"が、私にとっての支えです』


次の日の朝、返事が来ていたことに気がついた。


『ありがとう』