それから何日かしても藍里の気力は回復しなかった。

ある日の朝、仕事でしっかり動けるように無理矢理少量の食事をしているとテレビでニュース速報が流れた。
何かの事件の犯人が逃走したと表示され、さらに見ていたニュースも速報だとそのニュースを読み始めたのをぼんやり見てからゆっくりと立ち上がり、家を出る準備をして仕事に向かう。

この時、ちゃんとこのニュースを見ておけばあんなことにはならなかったかもしれないと思うことになるのだけれど、今の藍里には仕事のこと以外を考える余裕はなかった。



「小蔦、ちょっと来てくれる?」

「……はい?」

トリミングの最中に顔をしかめた先輩に話しかけられた。
いつもなら作業中にそんなことはしないのに、手の空いていた他のトリマーが藍里の作業を代わり、藍里は先輩に休憩室に連れて行かれてしまった。

「先輩?あの……」

「小蔦、今から迎えが来るらしいからすぐに帰りなさい」

え?と藍里は目を見開いた。
誰が迎えに来るのか、何故すぐに帰らなければいけないのかなど、何も説明がされていなくて疑問だけが頭に浮かんだ。

「えっと……先輩、どうして……」

「今は詳しいことは言えないの。けれど、これは店長の指示でもあるからとにかく帰りなさい。
……そして、暫く出勤してこないで」

その言葉に藍里はショックを受けて、足がぐらつき一瞬ふらついてしまった。
けれど何とかその場に踏みとどまり、どうして……。と呟いた。