SIDE 壱華







今日はとっても気分がいい。




「ふふふ」




今なら、たとえ本家の組員さんにでも笑顔を振りまける気がする。


こんなにわたしがご機嫌な理由は主に2つ。


まず第一に、高校卒業程度認定試験、略して高卒認定試験が、2日間に渡る考査の末、ついに昨日終了したということ。


これでやっと長かった勉強生活からサヨナラできる。


私の気持ちはスモーク越しの車窓から見上げる、8月の空のように澄み渡っている。




「壱華、どうした。お前もこの暑さにやられたか」

「え、むしろ寒いくらいなんだけど……じゃなくて、今日から厨房のお手伝いができるなんて嬉しいなって」

「はあ、仕事が楽しみ?んなのはせめて最初だけだ。
どうせ後から辞めたいなんて思うだろうから、考え直すなら今のうちだぞ」

「ううん、それは絶対ない。自分で決めたことだから」

「……チッ、真面目かよ」



そして今日はわたしの初出勤。


前々から考えていた給仕のお手伝いがついに実現する。


『試験が終わったら仕事に就かせてもらう』と志勇と約束し、お母さんの勧めで力さんに許可をもらい、ついに本家の厨房に立つときがやってきた。


志勇は送り迎えの車内でぶつくさ言ってるけど、わたしのわがままを許してくれるだけありがたい。