SIDE 実莉



「うー、寒かったぁ」



会議室を出て『あの人』を探しに廊下をうろつく。



「はぁ、まだ来ないし。
あっちは頭の堅いおじさんがつまんない話ばっかりするしぃ」



フロアに出てみるけど、思うように彼が現れないから、ちょっと気分が悪い。


なんでかなぁ。


ムカムカすると、いっつも壱華の顔が浮かんでくる。





小さい頃、壱華はパパに可愛がられてた。


赤の他人だと思ってた壱華がパパを独り占めしたの。


本当に幼いときからあの子が嫌いだった。


でもママは実莉たちの味方で『気に入らないならあの子から全部奪っていいのよ』って教えてくれた。


だからパパが死んじゃったとき、真っ先に壱華が大切にしていたクマのぬいぐるみを奪ったの。


そのときの壱華の顔といったら、ふふ、たまんない。


ちょっと可哀想って思ったけど同情なんてなかった。



だって壱華が悪いんだもん。


どんな人も始めは実莉じゃなくて壱華を見るから。


みんなあの子を可愛いっていうから、そんな人間を全員実莉の味方にして壱華の居場所をなくした。やがてその繰返しが快楽になった。




こんなこと、他人の耳に入ったら性格悪いなんて言われるのかなぁ。


そんなの知らない。なんとでも言えばいい。


実莉は自分の欲に素直なだけ。


これが実莉の生き方。


そう割り切れば、この世に怖いものなんて何もない。