そこにいたのは、黒髪に、目の下の泣きぼくろが特徴的なべっぴんさん。


はて、この人どこかで……?



「おい、壱華。あまりこいつを見るな。馬鹿がうつる」



わたしの肩に手を置く志勇は彼女を知ってる様子。



「聞き捨てならないわね、誰が馬鹿よ。
この前といい今日といい、わたしに変なレッテルを貼らないでくれる?」



あれ、この声、やっぱり───



「涼!?」

「ふふっ、そうよ。おはよう壱華。プライベートで会うのは初めてね」

「おはよう、涼。雰囲気変わったね、ごめんね全然分からなかった」

「あはは、分からなかったっていうならむしろ大成功だわ。
仕事のときはああやって変装してるの。
素顔でやってたらすぐにバレちゃうから、職場にも組のみんなにも迷惑かかるでしょ?」



あまりに違う雰囲気だから分からなかったけど、笑顔が私の知っている彼女と一致した。


けれど少し悲しげに笑う涼から、常に命の危険にさらされてるということを悟った。


やはり、極道たるもの卑劣(ひれつ)な行為はつきもの。


涼が組を離れて仕事をしていると知れば、涼を攫って潮崎を潰そうと企む輩はごまんといるだろう。


涼は自分を守るため、組を守るため、容姿を変えてまで仕事を続けたかったんだ。


本当に、意志の強い優しい人。