「……若様よ!」

「『シンデレラ』だ……」



繁華街を出歩けば、喧騒(けんそう)がさらに勢いを増す。


確かに、志勇が颯馬さんと剛さんを連れて歩く姿は、様になるというか、本当に王様みたい。


後ろを見れば厨房の力さんがいて、今日もお疲れ様だ。



「今日も連れてるね、シンデレラ……」

「なあ、あれってマジで帝王の女なの?」



ちなみに最近、わたしはシンデレラと呼ばれるようになった。


梟という情報屋は、わたしを『帝王の妃』から『シンデレラ』へ変えたらしい。


どうして帝王の妃からシンデレラに変わったのか志勇に聞いたら。



『お前は俺のシンデレラ。つまりお前は俺の女』



なんてドヤ顔で言われて、すごく恥ずかしかったのを思い出す。



「欲しいもんあったらなんでも言えよ。お前物欲なさすぎるからな」

「あ、うん」

「とりあえず、連絡用にスマホがいるな」

「スマホかあ……」

「下着もそろそろ買い換えた方がいいんじゃねえ?
胸がでかくなったから新しいのいるだろ」

「っ、志勇!」



相変わらず場をわきまえない志勇を注意したとき、雑踏(ざっとう)に紛れて、何かを感じた。


一瞬立ち止まり、辺りを見渡したけどこちらを見る者の顔は知らない人ばかりだから、気のせいだと自分に言い聞かせて、その何かを探すのをやめようとした。



刹那、人混みの中から、確実な音を捉えた。