「逃げようなんていい度胸じゃねえか。こっちは迷惑被ってるってのに」



ベッドに戻され、荒瀬さんはわたしを膝の上に乗せて抱きしめる。


腕にこめられた力が強くて息が苦しい。



「お前が車にぶつかってきたせいで、サイドミラーは壊されてボンネットが一部へこんだ。
運転手の剛って男が大層怒っててな……」



……そんな、どうしよう。


一文無しのわたしに車の修理代なんか払えない。



「……わたし、お金持ってません」

「ああ、知ってる」

「親も、払ってくれないだろうから、自分でちゃんと弁償します。だから、その、風俗には……売らないで、ください」

「はあ?」

「お願いします。売り飛ばさないで……」



こんなお願い、てっきり笑われると思っていた。



「お前、なんか勘違いしてるだろ」

「え?」



けれど帰ってきた返答は予想外のもので。





「お前はここにいるだけでいい。俺のそばにいるのならそれでいい」





続く答えは、予想の斜め上を抜け、わたしの心を揺さぶった。