暴走族の世界は恐ろしい。


敵と見なせば親しくしていた人間だって容赦なく傷つける。


あいつらはたった2週間付き合った女を選び、わたしを傷つけ、捨てた。



「待て、止まれって!頼むから!」

「これ以上逃げんな!」



後ろから迫り来るバイクの爆音と怒号がその事実を物語る。


だけど今日は追い立てる声に少し焦りがうかがえた。


明らかに慌てている。懇願(こんがん)にも取れる叫びだ。



けれど立ち止まることなく、走り続けるわたしの足は繁華街の路地裏を駆け出す。


入り組んだ路地裏を走り抜け四車線の広い道路に出た。


ここを渡ればやっと繁華街を抜けることができる。


まだあいつらは追ってこない。


だから見つかる前に道路を横断しようと試みた。


まさにその瞬間だった。










「壱華!」








聞き覚えのある声が、辺りに響き渡った。