「あ、見ーつけた」



リビングから廊下へ出て、玄関に向かおうとしたところで声をかけられ足を止めた。


振り返ると、立っていたのは外見だけは完璧な女、美花《みか》。




「これ、置いてあったからありがたく使わせてもらうね」



ご自慢のロングヘアを揺らし、ひらひらさせている手には万札が3枚。



「……」

「そうよ、あんたのバイト代からもらっちゃった。少しくらい抜いたっていいでしょ?我が家の召使いが働いてつくった金なんだし」



わたしを召使い呼ばわりする美花は、今年で20歳の女子大生。


戸籍上ではわたしの姉に当たる。


美花は清楚な見た目とは裏腹に、こっそりわたしのバイト代から金を引き抜き、盗んだことを正当化するほどの強欲のかたまりの人間。


道理でさっき金が足りないとおばさんに殴られたわけだ。


だけどわたしはここで返せ、とは言わない。


言ったところで何も変わらないことは分かりきってる。



「じゃ、これはデートに使わせてもらうから。またお金よろしく。バイバイ」



嫌に気分よさげな声を聞き流し、ヒリヒリと痛む頬を押さえながら家を出た。