三十になれば、当然結婚の報告だって増える。弥生の周りでは、結婚や仕事のトークばかりだ。弥生も「結婚する予定はないの?」と母親に訊かれることも多くなり、ちょっと疲れてしまう。他人事ではないとわかっていても、周りから急かされたり、流されたくはない。

「やっぱり、残ってたんだ」

ドキッと弥生の肩が小さく跳ねる。グルリと椅子を回転させれば、金髪で長身の男性が立っていた。白い肌や瞳の色は、日本人ではないことを物語っている。

「コーヒー買ってきた。どうぞ」

「ありがとう」

男性から渡されたコーヒーを、弥生はそっと受け取る。男性の名前は、ウィリアム・ポール。オーストラリア出身で、弥生の会社に三年前から転勤している人物だ。日本語はペラペラなため、みんなと問題なく仕事をしている。

「ウィリアム、帰らなくていいの?あなたはもう仕事終わったんでしょ?」

弥生の隣にウィリアムは座り、弥生と同じようにコーヒーを飲んでいる。電車の時間はまだ余裕があるが、駅には向かっておいた方がいいだろう。