痴漢にあった子が周囲に助けを求められないでいる。

という話を聞いたことがある。

多分、今の私の状況はそれと同じだと思う。

図書館という場所。

これだけ大勢の人が近くにいるのに私は大声が出せない。

それに、彼の最後の一言が私を抵抗させる気力を大いに失わせた。



「めがね、返してください」

「だめだよ、返したら逃げようと思ってるでしょ」

「逃げません。私強度近視なんです。裸眼だとほとんど何も見えない。一人で道を歩くのだって危ないって感じなんです」

「すごい近眼なんだ。もしかして自分の顔も見えないの?」

「めがねかければ見えます」

「そうじゃなくて素顔だよ。めがねかけてない自分の顔」


そういえば…。

私めがねかけた自分の顔しか知らない。

分厚いレンズののった顔が自分の顔って思ってたから、この人の言うことがすぐにはぴんと来なかった。