「全部…全部新しくて、楽しかった。
色んな生き物と話すことの楽しさとか、逆に通じないもどかしさ。

服だって、神様たちのセンスのなさは本当に面白くて、ちょっとセットをつくってあげただけであんなにも喜んでくれて、嬉しかった」



神様は目尻を垂らし、口角を上げて白い歯を見せる。

言葉にしなくても、言いたいことがわかった気がした。


『もうわかってるじゃないか』と。


私たちはそのまま立ち上がった。


休憩所のなるべく端の方へ行き、神様はそっと手を離す。


私はしゃがみ込み、神様の足元にいる白狐たちの頭を撫でた。


「左狐も右狐も、本当にありがとう。二人とも、すっごく素敵な狐なんだから、どっちが上とかないよ。さすが、神様の使いだね!」


そう言うと、照れ隠しなのか「こりゃ!犬扱いするでない!」「そうじゃそうじゃ!やっと世話係から解放されて、せいせいするわい」と話している。


でも、細い目の隙間から見える潤んだ瞳と、明らかに小さく垂れ下がった尻尾に、強がっているだけなんだとわかった。


「さあ、そろそろ帰らねば。日が暮れてしまうぞ」


私は立ち上がり、もう一度神様を見つめた。

もう二度と会えないかもしれない。だから、涙を堪えて、必死に目に焼き付けた。


「何かあれば、またこの山を登ればいい。きっと目に見えなくとも、舞に合う加護を与えてくれるはずだ。

さあ、こっちだ。この道が舞にヒントをくれるだろう。ただ、それをどう捉え、そこから何を得るかはお前次第だ」


風が吹き荒れる。春のような、何かに応援されているような暖かな風。


シャランと風鈴の音が背後から聞こえ、振り返ると大きな鳥居の道が、ずっと奥まで続いていた。


「……神様!!」


風に逆らい、私は神様に手を伸ばす。神様の背中に腕を絡ませ、ついに限界を迎えた涙が溢れた。


「神様…ううん、標様…。私は…標様のことが、好きでした」


自分の感情に正直でいいんだと、標様が言ったんだ。だから、今だけは、この気持ちに蓋をしたくない。封じ込めたくない。


これで、最後(おわり)にするから────。


「私は…皆の神だ。平等に、人々導くという使命がある」


……知ってるよ、そんなこと。そういうところを、好きになってしまったんだから。


すると、そっと暖かい腕が、私の背中に回された。

ぎゅっと、力強く。

神様に心臓があるのかわからないが、自分とは違う速い鼓動が伝わってきた。


それだけで、もう十分だった。


「大丈夫、きっと舞なら何にでもなれる。どこにでも進める」


私はゆっくりと腕を離した。標様も、それに合わせるように私を解放する。


私は涙を拭い、全力で笑みを浮かべて、鳥居の並ぶ道へと走った。それでも溢れ続ける涙は、風に乗って飛んでいく。


風鈴が、私の声をかき消すように鳴っていた。



「私、頑張るから!!がむしゃらでも、もがいてでも、進み続けるから!!だからっ────」




─────見ていて。