事の発端は、二日前。一月一日の出来事だった。


(まい)も今年、受験生になるな。どこか行きたい大学とか、考えているのか?」

 そう私に聞いてきたのは、賢明で厳格な父だった。私は出されたお雑煮に入った餅を口に運び、話せないふりをする。

「さすがにそろそろ考えてるだろ? 公募制の推薦入試なら、もう一年もないじゃないか。どうなんだ?」

 年明け早々、気が重くなる話題だ。四月から高校三年生になる私は、これから一年間、受験という呪いのような行事に苦しめられるんだろうなと思うと、早くも絶望の淵に立たされたような気分になる。

「……まだだよ」

 餅をごくりと飲み込み、父と目を合わすことなくつぶやいた。途端に、わざとらしい深いため息が耳に入る。私はお雑煮の入ったお椀を手に持ち、グイっと汁を飲んだ。そうやって、視界から話題を振った人を消したかったんだ。


「いいか舞。そこらの底辺大学にでも行こうものなら、働いてもらうからな。学費は絶対に出さん。わかってるな?」

 視界には入らなくとも、聞こえてくる重苦しい声。

わかってる、お父さんの言いたい事。そうやって脅して、とりあえず勉強を頑張らせることが目的なんだって。

レベルの低い大学なら行かせないとか、学費を払わないっていうのも、全部本気じゃないことはわかってる。

でも、今そういうこと言われるのはしんどいよ……。