「俺は、お前を迷惑だと思ったことはない」

弱気になっている私に翔馬君は、
そう言って言い返してきた。
ハッキリと言ってくれる翔馬君の言葉は、
何だか嬉しくなった。
すると美紀子さんは、クスクスと笑っていた。

「その言葉って……祐一郎さんが
あなたに言った台詞じゃないのよ……」

「あ、言うなよ!?
別にいいだろ……俺が言ったって」

頬を赤く染めながら必死に怒る翔馬君に
私は、二度も驚いた。そうなんだ……この台詞は、
翔馬君が叔父さんに言われた言葉なんだ。

きっと事故で車椅子になった翔馬君に
叔父さんは、励ますために言ったのだろう。
それは、今の私にも当てはまる言葉だった。

「とにかく。菜乃は、菜乃なのだから
お前のペースでいいんだよ。分かったか?」

「う、うん。ありがとう……」

耳まで真っ赤にして言う翔馬君の姿を見て
私は、自然とまた笑顔に戻っていた。
そっか……そうだよね。
私のペースでいいんだよね。

何だか少しだけ肩の力が抜けた気がする。
きっと翔馬君が励ましてくれたお陰だろう。
それからも私は、サポートをしてもらいながら
少しずつ声を出してお客様に挨拶をしたり
接客に挑戦してみた。

こうして無事にバイトが終わり私は、
祖母の住んでいる自宅に帰った。
帰りに美紀子さんに余り物のケーキを包んでくれた。
バイトも出来て、ケーキも貰えるなんて
何か得をした気分だ。

「ただいま~お祖母ちゃん」

「お帰りなさい…菜乃ちゃん。どうだった?
初めてのバイトは……?」

「大変だったけど楽しかったよ。
あのね……今日ね」