「ええ。あそこは怖いわ。腹の探り合いに足の引っ張り合い……。表面上仲良くしている人たちも、常にあら捜しをしてる。……せっかく王妃にと望まれたけれど、私には向いていなかったのね。結局陛下を困らせてしまっただけ」

「カイラ様……」

「ごめんなさいね。今から不安にさせるようなことを言って」

カイラの夢遊病は、毎日起こるわけではなかった。
ザックが毎日顔を見せるようになり、少し治まったのでは、というのは侍女の談だ。
それに、ロザリーに昔の自分を重ね見ているのか、少しずつ心情を吐露してくれるようになったのも、いい効果を生み出しているように思う。

「カイラ様、ザック様がお越しです」

侍女が呼びに来て、ふたりはもう一度身だしなみチェックをしてから、食堂に向かう。

いつものように先に案内されていたザックとケネスは、ふたりを迎えるために立ったまま待っていてくれた。

「今日はお土産がありますよ。うちの料理人のレイモンドに作らせたデザートです」

「レイモンドさんのですか? やったぁ!」

思わず両手を上げて喜ぶと、カイラにすっとたしなめられた。

「ロザリンドさん、はしたないですよ」

「あ、すみません」

慌てて口を押さえるロザリーを、カイラも本気で叱っているわけではない。すぐにくすっと笑って、「座りましょうか」と場を仕切った。