翌日、土曜だけど、私は出勤する。

誰もいないオフィス。

休日出勤なんて、入社して以来、初めてのこと。

初めてなのに、ひとりきりのオフィスなんて、なんだかいるだけで怖い。

会社なんだし、トイレの花子さんがいるわけじゃないし、大丈夫。

自分にそう言い聞かせて、仕事に取り掛かる。

昨日、連絡が取れなかった取引先に順に電話を掛けていく。

それでも、やはり土曜日では、担当者不在の会社も多くて、結局、必要数を確保することができない。

仕事ができない自分が不甲斐なくて、ひとりきりのオフィスも心許なくて、気を緩めたら涙がこぼれそうになる。

私が半べそで電話を掛けていると、すうっと冷たい風が吹いた気がした。

「あれ? 内藤? もしかして、昨日の本田の
尻拭いに来てくれたのか?」

「課長… 」

課長の顔を見てほっとした私の頬を、我慢してた涙が一筋流れた。

「昨日は、課長が不在だったので、部長に
許可を取って鍵を借りたんです。
どうしても月曜のセールに間に合わせなきゃ
いけないと思って。」

課長は、私の頬をその大きな手で包み込むように触れ、親指の腹で涙を拭った。

「悪かったな。
まさか、お前がそこまで責任を感じて仕事
してくれてるとは思わなくて。
もう大丈夫だから。
ちゃんと確保して手配できてる。」

私の頬に触れたその手は、やっぱり暖かくて…

ずっと触れてて欲しいと思ってしまった。