完全に彼に堕ちそうだったその時、タイミングよくチャイムが鳴った。
その音で私は我に返ったおかげで、なんとか離れることができた。
「あーあ、惜しかったな。
あと少しだったのに」
そんな私を見て、彼は妖艶に笑う。
なんだか負けた気分だ。
きっとこのままいけば私は───
たぶん、溺れていた。
「おっ、松橋?
どうしたんだ今日、珍しく遅れて」
「……すみません」
あくまで冷静に。
何事もなかったかのようにホームルームの始まった教室へと入る。
「あれ、でも鞄は机に…もしかして体調悪かったのか?」
こんな反応をされてあたりまえだ。
今まで遅刻したことなど一切ないのだから。
ぜんぶ、彼のせい。
水葉紘市くんはだれよりもキケンな人。
今日私は初めて“真面目”じゃないことを学校でしてしまった。