「このまま背中からも聴くよ。」


一旦胸元から聴診器が抜かれ、同じように首元から背中側に聴診器が入れられた。


「すってー、はいてー。すってー、はいてー。そのままね…。はい、ちょっと服ごめんね。」


再び聴診器が抜かれ、今度はお腹側から聴診器が滑り込んでくる。


「すってー、はいてー。すってー、はいてー。
…はい、いいよ。」


そう言われると同時にまた聴診器が抜かれた。
琴美先生の聴診は長い。いつもの話だけど長い。


「首触るからね。」
琴美先生が首に手を当てる。これはそんなに嫌いじゃない。
でもすぐ終わる。
ほら、もう終わったよ。はあ、お説教タイムだな。


「晴ちゃん。私さ、この前の検診のときになんて言ったか覚えてる?どういう状況になったら病院に来なさいって言った?」

「少しでも発作が出たら…。」


私の声は消え入りそう。


「そうだよね。晴ちゃんさ、発作出たよね?」

「…。」

「出たよね?」


先生と目を合わせられないまま無言で頷いた。


「どうして来なかったの?」

「…。」

「晴ちゃん、今自分がどういう状況だかわかる?今、かなり危険だよ。このままだったらいつ重度の発作が出るかわからない。こんな状況でお家には返せない。」


それはうすうす気がついてた。だから来たくなかった。
だってまた入院でしょ?
1回入院するといつ退院できるかわからないんだから。それに精神的にも参っちゃう。そんなのいやだ…。


「晴ちゃん、入院しようか。」


全力で首を横に振る。


「でも、実際自分でちょっとやばいのはわかってるでしょ?」


そう、わかってるよ。わかってるけど…。


「晴…。」


瞳の心配そうな声。瞳に心配かけちゃうな。


「わかった…。」


琴美先生に蚊の鳴くような声で答えた。


「よし、よく言った!でも私との約束はきちんと守ること。普段晴ちゃんは基本的に約束守ってくれるけど破っちゃうと本当に大変なことになる時だってあるんだから。」

「はい…。」

「じゃあ晴ちゃん、倉内さんと交代しよっか。倉内さん、いま晴ちゃんが座ってた所に座ってね。」


瞳、ガチガチだ。


「大丈夫だから。」


そう言って瞳と席を交代した。

長谷部先生と田川先生が肩をポンポンッと叩いてくれた。まるで、よく頑張ったと賞賛してくれているように感じた。