季節の移ろいに、こんなにも衝撃を受けたことはない――。

「はー、ようやくボーナスが出て、引越しのお金も職場から払い込まれて、一息つけましたよー」

 土曜日の朝。

 目の前には、ホクホク顔の真昼が居るが、金など出ても、俺はなにもホクホクしていない、と千紘は思っていた。

「千紘さん、今日はなにか食べに行きましょうか。
 あ、レモンの木、今日も緑が綺麗ですよ」
とベランダにしゃがみ、真昼はレモンを眺めている。

 今年はやはり実はならなかったようだが、真昼は日々、レモンに話しかけては可愛がっている。

 それにしても――。

 まさか、夏になるまで、本当になにもないとは……。

 千紘は、まだ機嫌よくレモンを見ている真昼を見ながら思う。

 此処らでなんとかせねば、この呑気な妻は、
「一年経ったので、じゃあ」
とか言って、本当に巣立っていきそうだ。

 卒業していく生徒のように。