相変わらず賑やかなうち。
平良ん家の店も賑やかになってきた。

玄関を出たところの、間の細い道。

「ねえ、平良。」
「ん?」

靴を履いたばかりの平良が振り向いて私を見る。

「平良はいるの?好きな人。」

同じことを聞いてみた。

平良は少し止まったように宙を見つめ、すぐに私の目を見て言った。

「他にいたら、お前と付き合わねえよ。」

ん?

平良はすぐにまた前を向いて歩き出した。

「え、なに、その答え。」

私も急いで靴を履いて追いかける。

いるの、いないの?
なんなの?

私の家はすぐ目の前。

平良は私ん家の(店の)前で立ってる。
こんなの、「送る」なんて言わないよ。

「ねえ、これ『付き合ってる』って言うの?」

ふいに出てしまった私の言葉。
しまった・・・と思っても遅い。
平良は、というと、固まってしまった。

数秒間の沈黙が気まずくて、急いで私が続ける。

「いや、だって、何も変わらないし、恋人っぽい感じじゃないし。」

平良の口がやっと動いた。

「別れたいってこと?」

え!
まったく逆なんですけど!

「そっ、そっちじゃない・・・」
「ん?どういうこと?」
「別れたいとかじゃない・・・」
「ちょっとよく分からないんだけど・・・」

平良は少し黙り込む。

せっかく付き合ってるんだから、もう少し何かあってもいいのに。
そういう想いはどうしたら伝わるんだろう。

でも平良は何もないことを望んでる。
だから矢野美織じゃなくて私なんであって。

「ああ」

ふいに平良がハッとしたように顔を上げる。

「俺に何かしてほしいってこと?」

・・・
なんだ、それ・・・

「なにその言い方・・・そんな言い方・・・」
「あ、違う?」

違わないけど、ニュアンスってものが・・・

私も固まる。
平良も固まる。

そこへ店の扉がガラガラと開いた。
中から数人のお客さんが出てくる。

「おお、なんだ沙和ちゃんと平良くん。」

常連のお客さんたちだ。
私たちは笑顔を即座に作って会釈する。

「まあ、いいや、俺帰るわ。」
「え?」

平良はいいタイミングと思ったのか、「じゃ」と言って自分の家に向かう。

「もう遅い時間なんじゃないかー?」
「デートかあ、いいなあ。」
「爽やかだねー、いいねえ。」

後ろからおじさん達の冷やかす声がする中、私は平良の背中を見つめる。

俺に何かしてほしいって
何かしてほしいって
そんな私、求めてるように思われたのかな。

なんかすごく、腹立つ。