「平良」
「ん?」
「あの・・・」

口ごもる私を、平良が「ん?」という顔のまま見つめる。

「・・・頑張って。」

なんとか声を振り絞って言う。

平良の顔がふわっと笑顔に戻る。

「おお、ありがと。」

言えた。

「うん、ごめん、それだけ。・・・いってらっしゃい。」

私は気まずさでむりやり口元に笑顔を作った。

「・・・あのさ、なんか書くのある?」
「え?」
「書くやつ。ペン。」
「ボールペンならあるけど。」

私がそう答えると、平良は被っていた野球帽を取った。

「書いてよ。」

クルッと帽子を裏返す。

そこには野球部のメンバー同士書き合ったと思われるメッセージがたくさん並んでいた。

「え・・・」
「ここなら試合中見れるし。」
「私が書いていいの、ここ。」
「うん。」

いつもみたいに平良がぶっきらぼうに言う。

時間がない。
私は急いでポケットから4色ボールペンを取り出した。

なかなか布地にインクがのらない。
薄い「ガンバレ」を書く。

「はい。」と帽子を平良に渡す。

「きったねー。」
私の文字を見て平良が笑う。

「ありがと。頑張るわ。」

平良はそう言うと、「じゃ」と体育館を駆け足で出て行った。
平良の後ろ姿が遠くなっていく。

私、もしかしたら本当に平良の彼女なのかもしれない。

顔が熱くなるのが自分でも分かって、教室に着くまでに冷めそうにないことに焦る。
彩乃と弥恵に冷やかされるんだろう。

あ、そうだ、授業が始まっちゃう。

呆然とする頭で、なんとか私も教室に向かった。