「初めは乗り気じゃなかったのに、私……本気で水城さんのこと好きになっちゃって……別れろ、なんて今さら言われても……」

嗚咽交じりで言葉を紡ぐ。

「もう引き返せないよ……。頭を冷やして何が一番大切なのか考えろって、そう言われた」

「引き返す必要なんかない」

すると、涙でぐちゃぐちゃの顔の私に叔父がにこりと微笑んだ。

「親父さんが言ったことは全部まともじゃない。けど、ひとつだけまともなことを言ったな」

「え?」

「何が一番大切なことかってことだよ。愛美ちゃんは昔から自分のことより、人のことを一番に考える。それが愛美ちゃんのいい所でもあるけど、行き過ぎは身の破滅だ」

身の破滅……?

そんなこと考えもしなかった。私が我慢することで相手が幸せになれるなら……と思っていたけれど、心のどこかで泣いている自分がいた。そして、それは弱さだと、そんな自分をねじ伏せて見ないふりをしてきた。

「人生一度くらい、自分の気持ちを貫いたって罰は当たらねぇだろ? 愛美ちゃんはビビってるだけなんだよ、自分を優先させることで相手がどうなってしまうかってさ。案外、周りは愛美ちゃんが思ってるより軟じゃないぞ?」

短い顎鬚を親指と人差し指でさすりながら叔父がニッと笑った。

「ここで彼氏のこと諦めたら、女が廃るぜ? 自分が幸せになることで、必ずしも誰かが不幸になるとは限らないってことさ」

「叔父さん……」

完全に沈みきっていた気持ちが叔父の言葉で救われた気がした。

「ありがとう。私、水城さんのこと……諦めたくない。もう、あんな素敵な人、一生出会えないかもしれないから」

「あはは、惚気る余裕が出てきたみたいで叔父さんも嬉しいぞ」

「の、惚気てなんか……」

叔父はクスクスと笑って立ち上がると、真っ赤になっている私の肩をポンと軽く叩いた。

“何が一番大切なのか”ということを問いかけるように――。