澤弥は、幸いにも左腕を斬られただけだった。



縫合が終わり、2人で澤弥のアパートに向かって歩く。


ヒール履いて澤弥の隣を歩くのは、私が大女に見えるから好きじゃないけど、今日ばかりは仕方ない。


「どうして、私の居場所分かったの?」


「携帯のGPS機能使った。」


そういえば、ケータイで何か登録するとか言ってたのを思い出した。


「会社から近かったし、バイク通勤してた後輩がいたから助かったよな。」


澤弥はそう言って、右手で私の頭をポンと軽く叩いた。



「タクヤ、会社のことだけど…。」


「アンは、気にしなくて良いの。

アメリカ出張は惜しかったけど、その後に本部転勤すること考えたら…今のままでいいかなって思うし。」


「…ゴメン。」


「アン、謝らなくて良いって。」


澤弥が心持ち私を見上げて笑った。



「タクヤ、あのね…。

して欲しいこととかあったら、言って?

できることなら、何でもするし。」


「何でも?」


「…うん。」


「じゃあ、抜糸済んでからで良いんだけど…。」



澤弥の手が、腰に回された瞬間…。


「ヤらせて。」


耳元で囁かれた。



なっ…!?


私は慌てて、腰に回された手を振り解いた。


「タクヤ、今すぐ左腕の傷口を開こうか?」


「やっぱ、駄目か…。」


当たり前でしょ?付き合ってるわけじゃないんだもん。