「婚約が破談になったなら、桜花崎さんは、どうして深田さんと結婚しなかったんですか?
お互い好きだったんですよね?
スイスなんて遠い所行かせなくても、側に置いてあげた方が彼女も幸せだったんじゃ…?」

「真美、俺達みたいに簡単にはいかないんだよ?
穰君の婚約は、ホテルの従業員だけじゃなく本社の人間にも知られてたし、何より株主やお得意様へ婚約パーティーの招待状も出してたからね?
穰君の婚約者だった彼女と、柊真が結婚するにしても直ぐには無理だったし、日本に残れば、彼女に対しての誹謗中傷も出るだろう。
これは、なにより彼女が望んでた事なんだ」と話してくれる稀一郎さんは、なぜか少し寂しそうだった。

住んでる世界が違うとそんなに大変なの…?
好きだと思う気持ちに、住んでる世界が違うなんて関係無い。…って言いたいけど、確かに私も感じたところはある。
それでも…

「でも、なんで深田さんは戻って来なかったんですか?
インターンシップって2年ですよね?」

通常のインターンシップは2年だが、恭子さんはHホテルで働きながら、向こうの大学にも通っていて、特別に延長して5年の期間を設けられたと稀一郎さんは話してくれた。

深田さんって、ホントに凄い人なんだぁ…

「でも5年なら、もうそろそろ帰って来られるんですよね?」

私の質問に、桜花崎さんは分からないと言う。

「えっ? どうしてですか?」

「彼女はホントに優秀でね?
スイスのHホテルの社長であるラウリンにも、気に入られてるらしくて、ラウリンの話だと、彼女にプロポーズしてるらしい」と困ってる様子もなく、平然と言う桜花崎さんが気になる。

らしいって…そんな呑気な事言ってて良いの?
それとも、自分を選ぶって余裕なの?

「あの…Hホテル社長のラウリンって…?」

「ラウリン・ホフマン。
Hホテルはホフマン一族が経営するホテルなんだよ」と何も知らない私へ稀一郎さんは教えてくれた。

ホフマン一族って…つい最近聞いた名前…
あっ! あの時ゼネラルマネージャーから聞いたホフマン・一族。

えっ!? あのホフマン・一族なの??
国内外のホテル経営だけでなく、国をも動かす力をも持ってるとか、いないとか…
ここ最近では日本企業の買収も行なってるらしいって、以前稀一郎さんから教えてもらった事がある。

そんな凄い一族の人からもプロポーズ…?