律子さんが、うちに来た日から5日が経った朝。

私は、いつもの様にワンコロの散歩を済ませて、シャワーを浴びる。
今日は、これから生田さんのご実家にご挨拶さつに伺う。

やばい…胃が痛くなって来た…
こんな状態で、今日一日乗り切れるか不安で仕方ない。
二日前から緊張で、胃がチクチクし出していたのだ。

「真美、支度出来た?」

「ごめん、まだ…」

さっちゃんに、生田さんとのご両親に会いに行と話したら「相手は老舗旅館なんだから、挨拶に行くなら絶対着物が良い!」と助言を受け、着付けの本を見ながら、母の置いていった着物、多分訪問着と見られる着物を着てるのだが、なかなか上手く着れなくて、朝から何度も着たり脱いだりを繰り返していたのだ。

「どうしよう…手がパンパンになって来た…時間まだ有る?」

「だから着物じゃなくて、洋服で良いって言ってるじゃん?」

「あっ、また、じゃんて言った!」

「真美の前では良いの!」

彼は仕事では、とても言葉使いにも厳しく、休憩中も絶対に自分を俺とは言わないし、勿論、僕とも言わない。
それから、語尾を伸ばしたり、じゃんなんて言わないのだが、私の前だけは素を出しているのか、度々自分を俺だの僕だのという。そして、今みたいにじゃんと言うのだ。
後、ゼネラルマネージャーとのプライベートの時もだ。
最近は、どこで覚えたのか、アヒル口までする様になった。

「ほら、脱いで脱いで!」

結び掛けていた帯を解かれ、彼に着物を脱がされてしまった。

「着物って結構エロいよな?
今まで着物着てる女(ひと)見ても何とも思わなかったけど、真美の襦袢姿みてたら、マジで元気になって来ちゃった…」

「はぁ?」

「真美…僕の下半身、いい子いい子して?」

いい子いい子って…
また、バカな事言い始めたよこの人…

「冷凍庫に保冷剤あったから、ラップで巻いて行く?」と言うと同時に冷ややかな目を向ける。

彼はブルブルと顔を振り、私に着物を着つけてくれた。
流石老舗旅館の息子、着物着せる事くらいお茶の子さいさいの様だ。