初めて聞く水城さんの声は低くて、ゆったりと落ち着いた口調だった。

デートのリクエストを聞くだけなのにわざわざ電話をしてくるなんて……結構、丁寧な人なんだなぁ。なんていいように解釈してしまう。

はっ!? でも待って、なんで優香じゃなくて私のスマホに電話がかかってくるの?

優香が水城さんに私の連絡先を教えたなんて、ひとことも聞いてない。

まさか……。

私はそこでようやく気がついた。優香が初めて水城さんに会った時から、姉妹の入れ替え作戦は彼女の頭の中で仕組まれていたのだと――。

優香のやつ~! 勝手に私の番号教えるなんて! じゃあ、恋人の振りをしてって言ってきたのは事後報告だったわけ?
キッパリ断ればよかった! なんて言ってたくせに、あれもこれも全部優香の演技だったってこと?

ハァ、やられた……。

優香は私の性格をよく知っている。私が「恋人の振りなんて絶対に嫌!」なんて言わないという自信があったのだ。

そういえば、優香は昔からずるがしこいところがあったな……すっかり忘れてた。

コンビニ袋を手のひらでぐちゃっと握りしめ、文句をしたためたメールを送ってやろうかと思ったけれどやめた。『わかった』と言ってしまった手前もう引き返せない。それに水城さんには私の連絡先を知られている。いまさら文句を言ったところでのらりくらりと誤魔化されるだけだ。

何度もため息をついて、つくづく自分の損な性格を呪いながら私はオフィスへ戻った――。