断りきれない性格は損だ。

私だって忙しいんです。こんな簡単な計算の書類、自分でやってくださいよ。って、ハァ……一回でいいから言ってみたい!

東新宿に本社を構える“アリバー電気”は従業員数二百人程度の中小企業で、私はそこの経理部に配属されて二年になる。今年は新入社員を採用しなかったため、この部署では私が一番下っ端。先輩や上司はいい人だけど、後輩だからと言って自分の仕事を押し付けてくる人も中にはいる。今みたいに。

「有坂さんもねぇ、仕事はできるし、いい子なんだけどさ……ちょっと地味でしょ? 合コンに呼べるタイプじゃないんだよね」

「別に呼ばなくったっていいじゃん。有坂さん、そういうの興味なさそうだし」

もしもーし? 輩方、バッチリ聞こえてますけど? なんだ、彼氏じゃなくて合コンか、だったら初めからそう言えばいいのに……。
けど、彼氏がいるのに合コンなんて行くもの? 私には理解できないけどなぁ。

先ほど私に仕事を押し付けた先輩がキャッキャと同僚とお喋りしているのを、黒ぶちの眼鏡を光らせてチラッと見ると、目が合った瞬間、ぎくりとした顔をしてうそぶいている。

経理部には男女合わせて十人の社員がいる。オフィスもマンションの一室のように狭い。だから、こそこそ話だってよく聞こえる。