アマソンで買ったBluetoothイヤホンから、東京を中心に流行っているというインディーズバンドの新曲が流れている。

彼らが何者なのか、どんな名前を贈られた曲なのか、興味すら抱いていない私は何一つ知らない。

音楽なんてものは、ただ消費するためだけにあるのだ。


「あ、十紀和ちゃん!」


ポップロックの隙間から、縫うようにして鼓膜を震わせた声。慌ててイヤホンを引っこ抜いて、薄ら寒い笑みを貼り付ける。


「おはようございます」

「おはよう。今から学校かや? 頑張ってねぇ」

「ありがとうございます。行ってきます」


両脇に田んぼを構えて連綿と続く一本道ですれ違った初老の女性と二言三言言葉を交わし、会釈してから再び歩みを進め始めた。

ふくよかで、人のいい笑みを浮かべる中西のおばさん。その腹の中にどんな虫を飼っているのかを、私は知ってしまっている。

しっかりと受け継いでしまった栗色の髪はこの緑だらけの町にはあまりに不釣り合いで、風に靡いて視界に入る度、温度差に辟易する。