「私はケイティというの。名前で呼んでもらえたら嬉しいわ」

「あ、ではわたしのことも、ロザリーとお呼びください。ケイティ様」

「素直ねぇ……。かわいいわ。アイザック様はこういう素朴な感じが好きなのね。道理でクロエではダメなはずよ」

ポソリとこぼされて、ロザリーはその意味を考える。
もしかしなくても、ザックとクロエの間に縁談があったことをうかがわせる内容だ。
ザックは二十二歳で、第二王子という立場から考えても、これまでに全く縁談がなかったとは考えにくい。加えてクロエは、ザックが懇意にし頼りにもしているイートン伯爵家の娘だ。むしろその縁談はあって当然と言える。

「母上、今更蒸し返さなくても。それに、あの話を先に断ったのはクロエの方ですよ」

ケネスがさらりと言うと、ケイティは盛大なため息をついた。

「そうだったわね」

ロザリーの中では、ザックとの恋は秘密にしなければならないものだと思っていた。なので、伯爵家のこのオープンな会話に、ちょっとドギマギしてしまう。

「聞いてちょうだい、ロザリーさん。ケネスといい、クロエといい、うちの子たちは全く結婚に興味が無くて。クロエなんて、旦那様がせっかくアイザック様にお話を通してくださったのに、『お兄様が結婚するまでは絶対に結婚しません』とか言い張って。あ……、心配しないでね。アイザック様とのお話は結局流れたのよ」

「は、はあ」