見張り番?
「ヴィーはピュリラ様に仕える神鳥ってこと?」

ーーーそうだ。大昔のことだがジョルジナが死んでしまった後から我の何代も前の神鳥が人知れずこの地に見張りとして遣わされた。ピュリラも亡くなり世代が変わったがこの使命は変わることはない。我が死んだらまた次の鳥がここに遣わされる。これは決まりなのだーーー

「そうなんだ。ただお腹を出して寝ているだけじゃなかったのね」

ーーーうるさい、楓。あれはお前が悪い。お前の匂いがそうさせるのだ。匂いに誘われてつい姿を現してしまったし、お前と一緒にいると懐かしい匂いで眠くなるだけだーーー

ちょっと拗ねたのかヴィーは元のひよこの身体になってぴぎゃー、ぴぎゃーと鳴いて私をくちばしでつつき始めた。

「痛っ、痛いってば。ごめん、ごめん」

暴れるヴィーを抱き上げて翼の付け根と首の後ろを撫でてやると、ヴィーは気持ちよさげに目を閉じておとなしくなった。

「ありがとう。私を守ってくれて。ヴィーには本当に感謝してる」
私が心を込めてヴィーの身体を撫でると、ヴィー黙って頷いた。

ーーーお礼は定期的な翼の手入れでいい。ああ、いやあのお前の番に嫌がらせしてやらねばな。楓、翼の手入れは毎日してもらおうかーーー
ぴぎっと鳴き声を立てて笑っている。

結構いい性格をしている神の使いである。

「ヴィクトール様」
父が跪いて控えめに声をかけた。

ーーーああお前たちが”救国の旅人”だな。
祖先に過去の業を押し付けられたお前たちも大変だな。だが、お前たちのおかげで我は楓と知り合い、楽しく暮らすことができる。礼を言うぞ。まあ少々刺激的ではあるが。ははははーーー

「もったいないお言葉でございます」
両親は頭を下げる。

ーーーこの先、楓はここで暮らすのだろう。お前たちが楓に会いたくなった時は地上から我を呼ぶといい。いつでも迎えに行ってやろう。なに、遠慮はいらぬ。お前たちには世話になっているしな。お前たちは転移に慣れているから高地順応も必要ないし楓のように手間はかからんーーー

「ヴィクトール様、ありがとうございます」
「ヴィーありがとう」

私たちは頭を下げた。これで両親はいつでもここに来ることができるのだ。

私はヴィーの翼の付け根を丹念に撫ででやった。
ヴィーは黙って目を閉じてうとうとし始めた。

なんとも平和で穏やかな午後だった。