「あ、あたりました!  これって、おまじないかなんかですか?」

「アイスクリームじゃなくても、よかったんだけどな。不安から意識を逸らし、会の時間を長くもたせるためにやってみたんだが……。いい具合に力が抜けて、離れもキレイだった」


そっか、アイスクリームって言うことに集中してたから、放したいって気持ちを紛らわせられたんだ。

だから、最近感じてた焦燥感もなく、自然と弦を離せた。


「ありがとうございます……先輩。今の的中の感覚、忘れませんっ」


最近、涙もろくなってしまって困る。

私はじわっと潤 うる みだした目を伏せて、泣いているのを悟られないように弓道場の出口に向かった。


「矢、回収してきます」 それだけ声をかけて、私は降りしきる雨の中、矢取り道を通って的場に行く。
 
背中から葉山先輩の「傘、忘れてるぞ!」という声が飛んできたけれど、聞こえないふりをして、私は的や安土から矢を抜いて集めた。

ふたりぶんの矢を脇に抱えて、取り残しがないことを確認した私は射場に戻ろうと 振り返った。そのとき――。