ケータイ小説 野いちご

紅葉色の恋に射抜かれて

「お母さん、ハンカチをトイレの手洗い場に忘れてきちゃったみたい。取りに戻るから、楓は弓道場に行ってて」

「うん、わかった」


しっかり者のようで、おっちょこちょいなお母さんに背を向けて、私はパンフレットを頼りに弓道場に向かう。

やがて、パンッと矢が的にあたる音が耳に届いた。

私にとって馴染み深い音だから、聞き間違えることはない。

私は体育館に隣接する外廊下を足早に進む。

すると、高い フェンスに囲まれた弓道場が見えてきた。


……誰かが練習してる?


今日は残念なことに弓道部の活動が休みだと、あらかじめ先生から聞いていた。

なので射場がどんななのかを確認したら、すぐに帰るつもりでいた。


でも、練習している先輩がいるなら、少し見学したいな。


そう思って射場が見える位置まで来た私は、弓を引き絞る黒髪の袴姿の男の子に目を奪われた。


あ……あの人の射形、無駄が一切なくて……キレイ。


彼の射形――弓を引く一通りの身体の動きや姿勢には、微塵の無駄もない。


射形には、その人の性格や心がそっくり現れると聞くけれど……。

この人は、きっとまっすぐな人なんだろうな。


矢を引き絞り、的を見据え、弓道用語では『会(かい)』と呼ばれる発射のタイミングを見極める動作に迷いがない。

矢がたくさんあたる人はたくさんいるけれど、弓道がキレイな人は稀なのだ。



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