紅茶のいい香りがして、詩穂は幸せな気分で大きく息を吸い込んだ。ベルガモットの独特の高い香りだ。詩穂が大好きな紅茶の香り。

 それを認識した瞬間、詩穂はハッと目を開けた。視界に映るのは丸いシーリングライトのある白い天井だ。視線を左にずらすと、ライトグリーンのカーテンが見えた。

 見慣れた詩穂の部屋のものだ。ひとり暮らしの詩穂の部屋で、詩穂が寝ているのに紅茶の香りがするはずがない。

 いったい誰が紅茶を淹れたのか? 

 詩穂はガバッと起き上がった。肩に掛かっていたブランケットが太ももに落ち、自分がブラジャーとショーツしか身につけていないことを知る。普段なら、決してそんな格好で寝はしない。

(そうだった……私、昨日、須藤くんと飲んだんだ。それなのに、こんな格好で寝てるなんて……まさか……)

 酔った勢いで彼と寝たのか!

「イヤーッ!」

 思わず悲鳴を上げたとき、壁で仕切られたキッチンの方で物音がした。

「小牧っ、どうした!」

 驚いた声を上げて、スーツのズボンとワイシャツ姿の蓮斗がベッドルームに駆け込んできた。詩穂の姿を見て、頬を染めて横を向く。