「あっ」
ガッシャン、と大きな音を立てて、目の前のチョコレートがこぼれていく。ここまで完璧だったのに、またやり直しだ。
「もう最悪……」
本の中のカップケーキを見て、顔をフルフルと横にふる。まだ諦めないんだから。
お菓子作りーーそれは不器用女子にとってかなり難関な問題だ。
何故突然、こんな柄もないことしてるかって?
それは、明日が郁也との一か月記念日だから。彼氏なんて初めてでどうしたらいいかわからないけど、何かしてあげたくて。
それに、郁也の様子が最近おかしいのは気づいてるの。
どうにか元気になてもらおうっていう、わたしにとっては一大プロジェクト。
甘い甘いカップケーキにチョコレートのコーティング。ピンクのリボンにカラフルな飾り付け。
「……郁也、喜んでくれるかな」
思わず顔がほころぶ。恥ずかしいけど、最近のわたしは郁也のことで頭がいっぱいだ。