「霧生、私達って付き合うの?」
「はぁ?」
霧生の気の抜けた声に、私は眉をひそめる。
「私とは付き合う気が無いってこと?」
「···何を今更な事を言ってんだ」
霧生の眉間にシワが寄る。
まさか、付き合うつもり無かったとか言わないよね。
私の独りよがりだったって事?
都合のいい遊び相手だとか、思われてるのかな。
言い知れぬ不安が沸き起こる。
「···っもういい」
「待て待て。何を怒ってんだ」
不安な気持ちに耐えきれずに、立ち上がろうとした私の手を霧生が慌てて掴む。
「だって霧生、私の事は遊びだったんだよね」
涙の滲んだ瞳で霧生を睨み付けた。
「だから、どうしてそうなった。俺は付き合ってねぇ女にベタベタしたりしねぇし、家にも入れねぇぞ」
焦った顔の霧生が私を見据える。

「だって···霧生に好きって言われてないし。付き合おうとも言われてない」
事実を口にした途端、涙がポロポロ溢れ出た。
「あ〜マジか···そうか。言ってなかったか」
「言われてない」
「悪かった。ずっと側に居たから伝えたつもりでいた。マジで悪かった。だから、もう泣くな」
霧生は眉をへの字に曲げ、私の涙を指で拭ってくれる。

「神楽、好きだ。お前を愛してる。だから、ずっと側にいろよ」
霧生は少しだけ照れ臭そうにそう言うと、私を優しく抱きしめた。
彼の胸に顔を埋め、大好きな香りを胸一杯に吸い込んだ。
「遅いよ、バカ」
「悪かったって。で、お前の返事は?」
ちゃっかり返事は聞くつもりなんだね。 
そんなの決まってるよ。
「···私も好き」
「ぜってぇ離さねぇからな。逃げられると思うなよ」
「逃げられる様な事をしなきゃいいだけだよね」
「ああ。するつもりはねぇよ」
私の顎に指を掛け上を向かせた霧生は、ゆるりと口角上げた。
「う、浮気は許さないからね」
「ああ。お前以外はいらねぇよ」
「釣った魚にも、たまには餌を与えてね」
「ああ」
「ずっと好きでいて、私も好きでいるから」
「当たり前だろうが」
「···えっと、それから」
「もう黙れ。言葉よりお前が欲しい」
霧生の瞳に欲情が宿る。見下ろす彼の纏う空気にゾクッと背中が粟立った。
ゆっくりと近付いてくる霧生、飛び出しそうな心臓を諌めようと胸を押さえ目を閉じた。
触れるだけの優しいキスが何度も落ちてくる。
それは次第に、深いものへと変わりだし、経験の無いキスに呼吸が激しく乱れた。

リップ音を鳴らしてゆっくりと離れた霧生の唇に、寂しいと思ってしまってしまった自分に驚いた。
「やべぇな」
霧生の呟きが落ちてくる。
私は、酸欠張りに浅い呼吸を繰り返し、霧生の胸元をギュッと握り締めた。
彼の鼓動が私と同じぐらい激しく脈打っていた。
「幸せ」
「お前、可愛過ぎんだよ」
不意に漏れた私の心に、霧生は嬉しそうに反応すると私を強く抱き締める。
この温もりは、もう手放せ無い。
1人じゃないって思わせてくれるこの温もりが、一番大好き。
だから、ずっとずっと側にいてね、霧生。