「神楽の馬鹿。本当に無事で良かった」
溜まり場で帰りを待っていてくれたツッキーが、事の成成り行きを聞いたあと私を抱き締めた。
「ツッキー、心配かけてごめんね」
彼女の背中に腕を回して抱き締め返す。
「戻って来ないから心配したんだからね」
「うん」
「でも、もう大丈夫なのよね?」
「うん」
「後は、おばさんとあの男ね」
「うん。お母さんには一度会いに行こうと思ってる」
話をせずに逃げてても、きっと何も終わらないって思えたから。
「分かったわ。でも、1人で絶対に行っちゃだめよ。なんなら、私がついていくわ」
「それは、俺の役目だっての。いい加減神楽を離しやがれ」
不機嫌な声を出した霧生は、ツッキーの腕から私を奪い取る。

「···チッ、女同士の馴れ合いに水を指すだなんてケツの穴の小さい男ね」
ツッキー! 辛辣すぎるよぉ。
「うっせぇわ。なんと言われても神楽は俺の子猫だ」
「神楽は猫じゃないわよ。馬鹿じゃないの」
「うぜぇ」
「ウザくて結構よ。さぁ、神楽も無事に帰ってきたし、私も眠いからそろそろ帰るわ」
欠伸を一つするツッキー。
ツッキー、眠い中待っててくれたんだね。
「なら、俺が送っていってやるぞ」
「いいの? 助かるわ」
総長が自分のバイクの鍵を手に揺らしながら、こちらへとやって来た。
「神楽、ヘルメット借りるぞ」
「あ、うん」
総長が、バイクに乗るなんて珍しいな。
「こっちだ」
ツッキーに目配せした総長は、自分のバイクに向かって歩き出した。
「じゃあ、神楽、また月曜日ね」
「うん。気を付けて帰ってね」
「気を付けるのは私じゃなくて、総長さんよ」
「そうだけど。ツッキー、今日はありがとう」
「どういたしまして。じゃあね」
ひらりと手を振ったツッキーは、総長を追い掛け背を向けた。

「樹弥の奴、珍しいな」
「えっ? 何が?」
「あいつ、タンデムには女乗せねぇんだよ。何かあった時に責任の取れねぇことはしねぇって」
「へぇ、そうなんだ」
どうして、ツッキーは乗せるのかな?
もしかして、総長はツッキーが気に入ったのかな?
ツッキーも満更そうでも無かったし、あの2人なら上手くいって欲しいかも。
2人の背中を見詰めながら笑みを浮かべた。
「嬉しそうな顔してんじゃねぇか」
「だって、なんだか嬉しいもん」
「俺以外の事でお前が喜ぶのはムカつく」
「どんな俺様だよ」
「神楽は俺だけ見てりゃいい。これからは、遠慮なんてしねぇからな」
私を見下ろす霧生の瞳に欲情の炎が灯ったのは、きっと気のせいじゃない。
ゾクッと粟だった背中に、官能的な何かを感じた。