(もしかして私のことなんて忘れちゃったのかな……)

王城に行けば、華やかな令嬢がたくさんいるだろうことは、想像に難くない。
ましてザックは王子様で、第一王子になにかあれば、王位を継ぐ立場だ。
結婚相手として、ふさわしい女性を勧められているかもしれない。

(……でも、いつか妻に迎えたいって言ってくれたもん)

辺境の男爵令嬢のロザリーにできることなんて限られている。信じるしかないのだ。彼の感情だけが、ロザリーを支えるすべてなのだから。

(なら、……待っていなきゃいけなかったのかな)

でもアイビーヒルで、来ない彼の便りも待ち続ける事なんてロザリーにはできなかっただろう。

「そろそろ店じまいしないとな。お嬢ちゃん、かわいいからこれやるよ」

十七時の鐘をきいた売り子は、「今日も売れ残っちまった」と言いながら、トマトをロザリーに渡す。
これ以降の時間帯は、土地勘のない土地を女一人でうろつくには危険だ。

「……レイモンドさんの成果を聞いてみるしかありませんかね」

ため息をついて、ロザリーは宿へと戻った。