「クリフ様、約束ですよ。絶対に連れて行ってくださいね」

約束だと小指を立てると、彼も小指を絡めてふわりと笑った。

「いいね。この先楽しいことが待っていると思うとイヤな仕事も面倒くさい折衝事も頑張ろうと言う気になるのだから」

ちょうどそこにオリエッタさんがハーブティーを運んできた。
「楓さまのおかげだとクリフォード様の側近の方々もお喜びのようですよ。”陛下の機嫌がすこぶる良い”って」

クリフ様が小さく舌打ちをして私とオリエッタさんは顔を見合わせくすくすと笑ってしまう。

「マルドネス達だな、あいつら、覚えてろ」

言葉とは裏腹にクリフ様が怒っている様子はなく、どことなく嬉しそうにも見える。
オリエッタさんやパメラさんの話ではクリフォード様はマルドネス様を筆頭とした側近の方々との関係は良好なのだと。

「クリフ様、お誘いを楽しみに待っていますけど、急がなくて結構です。ご無理なさらないで下さいね」
忙しいクリフ様の体調も気になるし、私には時間があるらしいから。

「ありがとう、楓」

クリフ様が私の肩を軽く引き寄せる。
私は流れに逆らわず、彼の肩に頭を乗せた。
いつの間にかオリエッタさんはいなくなっていた。

窓からは月明かりが注ぎこんでいて月も星も地上より大きく見える。


ーーー落ち着く。
クリフ様の肩に頭を乗せているだけなのに、ハグをしてもらっているような安心感に包まれている。
いつの間にか自然に心の距離が縮んでいたのか、触れ合っていても嫌じゃない。

心地よくてもっと一緒にいたくなるようなキュンと切なくなるくすぐったい想いが湧き上がってくる。

私、惚れちゃったのかしら・・・?

不意に頬にキスが落とされた。
「そろそろ執務室に戻る。--名残惜しいが」

行ってしまうの?と目で問いかけると、唇に軽いキスが落ちてきた。

「私も行きたくはないんだ。今夜も遅くなる。先に休んでいて」
さっと立ち上がり、スタスタと部屋を出て行ってしまった。

残された私はぽっかり空いた自分の隣のスペースと心の穴に何とも言えない寂しさを感じて大きなため息をついた。