「乗り物酔い止めの薬ならここにも準備してあります。これはいかがでしょう?」

秘書さんの開いた手の中には見たことのあるパッケージの乗り物酔い止めの薬があった。

「これ!これいけます、はい。これいただいていいですか?後でお金は払います」
両手を顔の前で合わせて思わず拝んでしまった。
神だ。

「いや、よかった。万が一にもとの思いで準備していた甲斐がありました。どうぞ、お使いください」
私にそっと渡されたそれは何度も使ったことがある馴染み深い薬だ。

早速箱の中から薬を取り出し口に放り込んだ。
ああよかった。
これで安心して移動ができる。

それからしばらくすると、気持ちが落ち着いてきた。薬が効き始めたのだ。
ホッとして、また秘書さんたちとの会話に戻った。

「乗り換えしないで行くことはできないんですか?直行便とか」
試しに聞いてみると、
「ありますよ」と予想外の返答があった。

「あるんですか?」と身を乗り出すと、大柄な護衛さんが苦笑している。

「その方法だと、そんなに時間もかからないのですが」
何か言いにくいことらしく秘書さんは眉をしかめた。

何だろう、まさかジェットヘリとか政府専用機とかかな?
考えられるのはそんなものだけど。
一般民間人の私がそんなものを利用できるわけがない。

そのうち徐々に身体が重くなり、睡魔がやってきた。

「楓さま。乗り換えの際にはお声がけしますので休んでいただいても構いませんよ」と秘書さんの言葉と同時にうとうとしはじめてしまった。

この状況で寝るなんて神経が図太いとか言わないで欲しい。
昨日、シェリルさんとワインを飲んで帰宅した後で深夜の恋愛ドラマを見たせいでちょっと寝不足だったのだ。
まあ、いいわけなんだけど。