「レイモンドさん、どうしたんですか?」

「……いや。……すまん、クリスの手紙は入ってなかった。さあ、仕事に戻るぞ」

「でも」

「いいから」

明らかにレイモンドは落ち込んでいる。けれど、他人あての手紙を許可なく見るわけにはいかない。困り果てていると、不審な空気を感じ取ったチェルシーが近寄ってきた。

「なにかあったの?」

「いま、オードリーさんから手紙が来たんですけど、なんかレイモンドさんの様子がおかしくて……」

仕事に戻ったはずのレイモンドは全く集中できておらず、フライパンに手を突っ込んで「あちぃっ」と騒いでいる。

「何やっているのかしら。あんなんじゃ仕事になりゃしないわ」

「ですが、手紙の内容を聞くのもはばかられて」

「遠慮することないわよ。ぶっちゃけレイモンドの腕にこの宿の未来はかかってるんだもの」

そういうと、チェルシーはつかつかと彼の傍に近寄り、彼が調理服のポケットにしまった手紙を引き抜いた。

「何するんだ、チェルシー」

怒鳴られてもチェルシーは少しも動じない。手紙をひらひらとさせたあと、彼の鼻先に突き付ける。

「レイモンド。読まれたくないのなら、何があったのか話して。今の状態のあなたが作った料理が、商品になるかどうか。……あなたにならわかるわよね。しっかりしてくれないと、私たち、路頭に迷ってしまうわ」

凄みのある笑顔で言われ、レイモンドは口もとを引くつかせた。
しかし、全幅の信頼を置いているチェルシーの発言はもっともで、レイモンドは諦めたように肩をすくめた。