「こんなに仕事も出来て、物腰柔らかくて優しく気遣いできる土居さんなのに……。本当に、いらっしゃらないんですか?」

それは、心底驚いたといった声の具合で素直に響いてきた。
なので、俺は苦笑しつつ素直に事実を答える。

「えぇ、社長秘書になって三年。すっかりお相手は居ないまま、仕事に邁進して気づけば三十路です。平野さんから見たら、いいオジサンですね」

自分で言葉にしつつ若干凹む。
そう、新卒の彼女とは七歳の差がある。
俺は、彼女とはいいオッサンと言えるほどには年が離れているのだ。
しかし、彼女への想いは諦めきれそうになく、俺はダメもとでこの誘いをかけたと言える。

「えっと、確かにお腹は空いているので、土居さんさえ良ければ」

少し恥ずかしそうに返事をした平野さん。
可愛すぎるだろう!!
内心で、床にバンバン拳叩きつけるがごとく身悶えているがそんなことは顔には一切出さずに俺はにこやかに返す。

「俺から誘ったんだ、悪いわけないだろう? 何が食べたい?」

俺の問いかけに、彼女は少し考えた後でこう答えた。
「まだ、なかなか飲みに出たこともないんですが。同期に会社近くのスペインバルは美味しいよって言われて、気になってて」

「平野さんは、お酒飲める方?」

そんな俺の確認に、彼女は首をフルフルと横に振った。

「私、そんなに強くなくって。グラス一杯が限界です」

本当に、可愛いの権化か!!
もう、可愛がりたくって仕方ないのをなんとかねじ伏せ、俺と平野さんはスペインバルへと足を向けたのだった。