青かった空が色を変えていく。

 夕暮れ時を迎えて風が向きを変えた。

 丘の下の街で教会の鐘が鳴る。

「さて、今夜の宿を探そう」

 目を開けるとエリッヒが上半身を起こしてエミリアを見ていた。

 起き上がって二人並んで海に沈みゆく夕日を眺める。

 彼がつぶやいた。

「いよいよ明日はフラウムだ」

「不思議なものですね。旅が終わるかと思うと、寂しくなります」

「そうだろ。俺もだ。帰る前にもう次の旅に出たくなるんだ」

「せっかちすぎますね」

「好きでたまらないんだろう」

 彼の言葉にエミリアが赤面する。

「……旅が、さ」

 エリッヒが照れながら立ち上がる。

 相手の不器用さにあきれながらエミリアも立ち上がった。

 すぐ隣にエリッヒがいる。

 その気持ちを確かめることはできなくても、そばにいてくれる。

 もうすぐ旅が終わる。

 その時を受け入れることができるかどうかは分からない。

「さあ、行こう」

 エリッヒが断崖を背にして丘を下り始めた。

 エミリアもその後をついていった。

 今この瞬間を止めることはできない。

 だから、それを永遠にするために言葉はあるのだ。

「エリッヒ」

 彼が振り向く。

「すてきな景色をありがとう」

「お気に召して何よりだ」

「一生忘れませんわ」

「俺もだ」

 二人はお互いに微笑みあい、固く手をつなぎながら眼下の街へ向かった。